「ゾロの白いシャツが風でハタハタとなびいていた!」とかいう萌えトークは置いておきまして、
今回は「制作方針」的な視点で、パンフを読みながらの地味な感想がメインです。
萌え感想も別の機会に書きたいと思ってます。時間があれば。

脚本家が何をする人で作監が何を描く人で
監督が何を決める人なのかはよく分かっていないのですが
感想を分類するために、便宜上、スタッフの役割別にまとめました。

脚本伊藤正広

脚本家がバラエティー番組の構成作家だと知ってなるほどと納得しました。
突然ですが、私の好きなバラエティー「めちゃイケ!」について語ります。
私の知る限りでの話ですが、ツッコミがボケを叩いた時に「バシッ!」という
効果音を挿入したパイオニアがめちゃイケだと思っています。
今回の脚本家がめちゃイケに関わっていたという訳ではありませんが、
まぁ、いいからめちゃイケについて語らせて下さい。
めちゃイケは他にも画面内に登場している人物に対してナレーションや字幕テロップが
ツッコミを入れるという新しい手法も作り出したと思っています。
今ではどのバラエティー番組でもセリフのスーパーが出ますし、
画面が複数に分割されて、同時進行する展開を楽しむといった、非常にスピード感の溢れる構成が
主流になってきていると思います。
そんなハイテンションなバラエティー番組やゲーム画面に慣れ親しんだ子供達にとっても、
今回の映画は息を付く暇もない展開だったと思います。
短い時間でどれだけ視聴者の興味を引っ張るかという技術に長けた構成力が十分に発揮されたと思います。

画面の中心だけで物語が進んでいるパターンとは違って、
あっちこっちで進む多元中継が軽快に進んでいく今回のストーリー運びに
ワクワクが加速する感覚を覚えました。
テンポがいいのでギャグが全てはまっていたと思います。
特に私が気に入っているのはDJカッパとウソップとのやりとりです。
「おたく、今、僕のことバカにしたでしょ!」
「ちょっと、暴走してない?」
「ゆるさないー!」
「いや、なんでそうなるの。」

…電光掲示板に文字が流れる演出はこの人のアイデアかなー。

キャラクターデザイン・作画監督すしお
キャラクターデザイン・作画監督
久保田誓
キャラクターデザイン・作画監督
山下高明

これまでの映画やTVシリーズと最も異なるのが絵だと思います。
今回の絵の素晴らしさはなんといっても「動いていた」という事だと思います。
アニメが動くのは当たり前の事ですが、「パラパラ漫画で絵が動いているように見える」
というのではなく、実写で撮影した人物の映像の解像度を落としたような絵でした。
「粗い」と言ってしまえばそれまでですが、遠くの小さく見える人物は実際顔の形は見えませんし、
そう考えるととてもリアリティーのある絵だったと思います。
イラストとしての完成度は低い絵なのかもしれませんが、
絶大な存在感を持つ背景にしっくりと馴染んで浮いていなかったと思います。
何よりもキャラの動きが、本当に人が動いているような動きだったんです!
例を上がるとキリがないのですが、冒頭部分でメリーの船首に座るルフィが立ち上がる時に、
腰の重心が左右にずれる所など、人間が体を動かす時に起こる重力の移動が描かれていて、非常にリアルでした。
その一方で舞台役者のような大袈裟な体の揺れなどが
ドラマティックにキャラクターを動かしていたと思います。
躍動感が見てる側にも伝わって来ました。そして、服がお洒落だったー!

お気に入りはたくさんあるのだけれど、覚えているのを取りあえず。
ロビンが階段を上がる時の腰の揺れ!!
ゾロのピッチャー返しの背中!!
サンジの鉄板ホッケーの滑走!!
ナミのグラスの揺らし方!!
男爵の弓の構え!!
チョッパーがリリー・カーネーションに食べられる時の足の揺れ!!!
そう!草食動物が敵に捕まったり、縄で縛られた時に
ブルンと揺れてもがく足の動き!痛々しい!!

音楽田中公平

唯一、TVシリーズも手がけてらっしゃる方ですが、今回の映画の素晴らしさを語る上で
やはり音楽も切り離すことができないでしょう。
まず最初オープニングで流れる南国のリゾートをイメージする曲に心がウットリします。
友人は「『ANAで行く沖縄』とかいうCMみたいだ。」と言ってました。
(※船旅ですよ。)
ナミがムッチーと語らう時のジャジーな曲はすごく大人っぽくて
岡田准一がやってるウィスキーのCMっぽいと思いました。昭和っぽいの。音がレコードっぽいの。
すっっっごく「夜」という感じがして、しかもそれがプールサイドなんだと思うと、
心は太平洋の真ん中に飛んで行きそうでした。実際、ちょっとだけ飛んだ。

そして私のお気に入りですが、とにかく太鼓!
ドカドカドン!っていうリズム!
なにあれ!ワクワクしちゃう!
男爵が象に乗って登場する時、輪っかにぶらさがってゲームルールを説明する時、
太鼓を叩きながらディナータイムに招待する時!
いつも太鼓が鳴ってた!
なんだろう、男爵は和太鼓みたいなのを叩いていたけど
すごくポリネシアショー的な熱さもあったり
絶妙に入る静かな“間”はバリ島のケチャダンスみたいでもありました。
どこの地方の音楽だと特定はできないんだけどリゾートっぽくてお祭りっぽくて
理屈抜きに心臓の鼓動も一緒にリズムを刻みました!
ほんと、太鼓、最高!

監督細田守

残念な点や物足りない点も当然ありましたので、まず、先にそれらについて触れておこうと思います。
後半があまりにも暗くて、最後は明るく終わってくれるのかと思ったら
「あー、よく寝た。」「おい、朝日が出てるぞ。」と、
ジャンプの打ち切り漫画の最終回ような終わり方だと思いました。
ルフィ以外のキャラが「困難を乗り越える」シーンが無かったのも残念です。
この2点については「時間切れ」が原因だったのかと推測します。
ワンピースファンは原作でワンピースの素晴らしさを十分堪能していますので、
アニメはアニメならでは楽しさを提供してくれればいいと私は思っています。
ですからストーリーの詰めが甘い、とかは私は気になりません。
何と言っても前半の「アニメならでは」の楽しさに圧倒されましたので、
それだけで文句無しの映画です。

残念な点というか、問題になるであろう点は、
目を背けたくなるようなルフィの痛ましいシーンだと思います。
正直言って、私も直視出来ませんでした。
見た目の刺激もさることながら、ブリーフやお茶の間パパにルフィが救われるという
情けなさも見ていて気持ちが暗くなりました。
この点については「問題提議」としての意義があるのではないかと受け止めて、私なりに色々考えてみました。
最も心が痛んだのはルフィの「無力さ」なのではないかと私は思いました。
強いルフィのあんな姿を見たくない、という気持ちでした。
私達はこれまで原作やTVアニメでルフィが傷だらけになって血をたくさん流して
砂や泥に汚れる姿をたくさん見て来ましたが、いつでもルフィを頼もしく誇らしく見つめていました。
しかし今回は今までに全く無い姿でルフィの弱さが表現されました。

これはとにかく「新しい」という事だと思います。
良いとか悪いという答はおそらく出ないのでしょうが「新しい、見たことの無い物」に私達は戸惑っているのだと思います。
私の正直な気持ちとしてはあんなカラカラのルフィは見たくなかったのですが
「新しいワンピース」を作ろうとした監督の挑戦や覚悟を評価したいと思います。

もう4年以上もTVのワンピースを見ているんです。
毎週見ているんです。何度も見ているんです。
映画も5作品全部見ているんです。

「いつも通りだったね。」なんていう感想しか出ないような映画はもう要らないんです。
「全然いつもと違う!」
「絶対TVじゃ無理だよね!」っていう映画が見たいんです。
ワンピアニメの歴史に名を残す作品になったと思います。

さぁ!ここからが本番だ!
今から、今回の映画の素晴らしさを語って語って語りつくすから
覚悟しやがれ!

監督細田守

細田守と言う人はルイ・ヴィトンの各店舗で流すプロモや六本木ヒルズのTVCMを
手がけた人だと聞いていて、すごく期待していました。

私が実際に見た物ではワンピの第1作と同時上映されたデジモンの映画「僕らのウォーゲーム」があります。
ワンピの映画を観に行った友人が異口同音に「デジモンが良かった。」と言ってました。
なんか、無駄にかっこよかったんです。
主人公が戦う敵がエヴァンゲリオンの使徒のようなビジュアルで、
CGを駆使したハイテクな演出効果が印象に残りました。ハイテクって言葉が古くさくてすいません。
ハイパーな演出効果が印象に残りました。

さてさて!そんな細田守氏が手がけたワンピースは一体どんなだったかと言いますと、
キャッチコピーを作るなら「動くポストカード」です。
これまでの映画で作品中にポストカードにしたいシーンが30箇所くらいあるとするなら、
今回のオマツリ男爵は180枚くらいあると思います。
つまり、どこを取っても絵になっているんです。
下手な説明のための地味なシーンは一切なく
画面が絵になってるかどうかが勝負でした。細田的に。多分。

これまた例を挙げるなら、それこそ180箇所くらいあるのでキリがありませんが
チョッパーが1人で島を探検するシーン。
過去の栄光を物語るような影のある豪華なリゾート地の奥まった路地裏で
すこし日が傾いて景色が色褪せたような、黄味を帯びた空間の中で
チョッパーが1人佇んで左右を不安げに確認するシーン。
その1枚1枚がまるで映画の1シーンのようでした!
(※映画の1シーンですよ)
「人がいないことを不安げに、周囲を見回すチョッパー」を物語るだけの絵なのですが
チョッパーのゆっくりした動き、背景が醸し出す独特の寂寥感がヨーロッパの映画のようでした。

そこに存在する「間」が退屈な物ではなく、その静けさに私達は引き込まれていきました。
すごくシンプルな絵なのに、島の持つ異様な空気が押し寄せてきて
あそこから一気にダークになっていきましたよね。叙情的に!

さて、常日頃から私は「ワンピースのビデオクリップが見たい」と思っていましたので、
今回の長編ビデオクリップは全身がフルフル震えるほどの興奮エクスタシーだったのです。
先ほども言いましたが、アニメのオリジナルストーリーに深いバックボーンを求めてはいないのです。
1瞬、1瞬で私達を楽しませて欲しい。キャラクターのかっこいい動きを説明無しに見せつけて欲しい。
そんな気持ちなんです。そんな私がウハウハしました。

例えば、最初のメリー号内で。
ナミが「スパ&エステ〜?」
サンジが「美女と琥珀色の時間〜?」
チョッパーが「満願全席?」と言ってるシーン。
実際なら彼らの背景にはメリー号の船室や甲板が描かれることでしょう。
でも、違いました。細田は違いました。
ナミの背景は地図とお金。
サンジはキッチン用具。
チョッパーはどこかで医学書を読んでいるのですが
あのセリフのやりとりやメリー号内の実際を考えると
チョッパーがたくさんの本に囲まれる絵というのは不自然な物だと思います。
しかし、違うんです。細田は違うんです。
実際の立ち位置とかどうでもいいんです。
キャラはいつだって私達の心の中にいるんです。
この時の背景がどういう物か説明するなら
「プリクラのフレーム」のような物でした。
わぁ、すごい的確な喩えだ!我ながら。

状況説明よりも、絵的な楽しさを優先するんです。細田は!
わーい!そんなワンピースを待ってたんです!
なぜ、ゾロが戦ってるか、とか別にいいんです。
それよりもゾロが格好良く刀を振り上げて欲しいんです!
格好いい刀の構え方を見せつけて欲しいんです!最高の角度で!
だから、敵が金魚でもいい!
ゾロの格好いい動きを見せてくれたらそれでいい!
ゾロが空に羽ばたいて、金魚に向かっていく時に
金魚のうろこがハラハラ舞い落ちて、それはそれはサクラ吹雪のごとき風情でした。
サンジがモダン焼きの仕上げで「極薄に削った鰹節を飾りますれば…」と言ってポーズを決める時に
ハラハラを舞い落ちる鰹節はそれはそれは銀杏並木のごとき風情でした。

ああ、もうとにかくすごいんだ。細田守は!
キャラの登場の仕方がミュージカルだ!
暗転とかあった!緞帳があがった!
そして電光掲示板!
私、この映画の好きポイントベスト3に電光掲示板があるんです。
あのね。アニメで電光掲示板を描いたら多分すごく色数の少ないハッキリとした画像になると思うのね。
極端な話、電気が点いてるか、消えてるかの2色だけでOKなんですよ。
でもね。細田の電光掲示板は違った。
たくさんある電灯のそれぞれの寿命が微妙に違って明るさがまちまちなの!!!!
これがどういう事かと言いますと
すっっごい大きい電光掲示板なんですよ!
すっごく大きくて屋外にある電光掲示板で、私の貧困なイメージで説明するならラスベガス!!!
そんな大きなスケールの電光掲示板を間近で見た時にすごく感動して
男爵が輪投げゲームのルールを説明しているのが全く頭に入ってませんでした。
「うわー、電光掲示板、でかー。」って口が開いてました。

あと、それからプール!!
「プールサイドに全員が集合」という脚本で細田守はどんな絵コンテを作るかというと
プールの水に映り込んだゾロ。黒スーツ!
プールの水に映り込んだサンジ。黒スーツ!
プールの水に映り込んだナミ。黒ドレス!
プールサイドだよ!全員集合!
どーん!!

・・・って感じ。

(細田守の絵コンテを文字で表現するという無謀)

それから、それから無駄に多い衣装替えも良かった!
紅白歌合戦の司会者のごとき色直し!
場面毎に衣装を変えればいいよ!
映画だから何でもアリなんだ!
だってここはグランドラインなんだ!

楽しい映画を本当ありがとう!


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